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PARANOID-RECKONER

『聖なる黒夜』パロ及びオリジナルJUNEで駄文を書いておりますたちばな惑子のブログです。 イベント参加情報、新刊情報、コメントのお返事など。****HP引っ越しました!(2010年1月)新しいurlはプロフィールの『RECKONER』からどうぞ。 *** This site is not about RADIOHEAD.  
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惑子は練ほどかわいい人を知りません。

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BREATHE UNDERWATER


 深い眠りの底に沈みかけた練の意識を何かの音が邪魔した。

 ――トクトクトクトク。

 ……。

 ――トクトクトクトク。

 ……るさい。

 ――トクトクトクトク。

 ったく、うるせぇな。いつになったら止むんだ、この音。

 ――トクトクトクトク。

 ……これは……俺の心臓の音か?

 ――トクトクトクトク。

 くそ。うるさい。

 ――トクトクトクトク。

 うるさいうるさいうるさいうるさい……。


 張りつめた心が些細な音で苛立つ。
 規則的に繰り返される小さな振動が煩わしかった。
 己の息遣いも、血液を送り出す筋肉の伸縮する音も、何もかもがうっとおしかった。
 鼓動を止めてしまえば深い眠りに就けるのだろうか。
 自分の生命活動の全てを放棄して無音になれるならば。

 試しに息を、止めてみた。

 耳障りな息遣いは消え失せた。
 だがその間も心音はやまず、相変わらず同じリズムを刻んでいる。

 そうして息遣いが消えたのも束の間だった。
 すぐに苦しくなってまた、呼吸を繰り返してしまう。
 堪えても。堪えても。
 そのことが更に苛立ちを募らせる。

 息を止めることさえ、できないのか。

 悔しさに唇を噛む。
 口の中にしょっぱい鉄の味が広がった。

 太陽の光も届かない、漆黒の海の底でならば、静かに安らかに眠れるのだろうか。
 何にも邪魔されず、眠りにつくことができるのだろうか。

 海の底へと沈むように暗いところへ落ちかけていた練の意識にふと、どこからか心地よい音が浮かんだ。
 緩く目をつぶったままその音を反芻した。
 じっくりと。耳を澄ませて。

 海面から顔を出したように呼吸が楽になる。
 イライラとしていた気持ちが徐々に小さくなる。
 これは、この音は、愛しい男の心音だ。

 龍太郎の心臓の音は安心する。
 龍太郎の音ならばきっと、ぐっすりと眠れる。
 龍太郎の音と俺の音が重なると優しい和音になる。
 とても安らかな子守歌になる。

 だが、もっと聞きたいと意識を集中するほどその音は薄れ、最後にはとらえることができなくなった。
 無性に、悲しくなった。
 苛立ちよりも心細さが内面を支配した。

 そうして改めて思い直す。
 今、ここに、龍太郎はいない。
 隣であの音を聞かせてくれる男はいない。
 そばにいない龍太郎を思うと、益々眠れなくなった。

 一人じゃ、眠れない。眠りたくない。
 たとえ眠りにつけたとしても、目覚めるのが怖い。
 龍太郎がいないから。
 目が覚めたとき隣に龍太郎がいないのだとしたら、目覚めずそのまま永遠に眠ってしまっていたい。

 頬が一筋ひんやりと冷たくなった。
 それを追うように全身が徐々に冷えていく。

 本当に海の底に沈んでしまったのだろうか。
 そう願ったから。沈みたいと。
 誰もいない、海の底に。

 ああ、眠れそうだ……。

 だんだんと、沈むように、体の力が抜けていく。
 徐々に呼吸が浅くなる。
 緩やかに意識が薄くなる。

 

 意識を手放しかけた練の部屋で突然、けたたましい電子音が鳴り響いた。

 

 練はベッドに腰掛けて麻生を迎えた。

「あんたって本当に卑怯だ」
「何だ突然」
「いつもは来ないくせにこんなときに限って会いにくるなんて」

 ――こんなに。こんなにも俺が弱っているときに。

「迷惑だったか。だったらそう言ってくれ。帰るから。だから」

 部屋を進んだ麻生は練の目の前で立ち止まった。

「頼むからそんなに泣くな」
「泣いてなんかない」

 麻生は練の涙を指でそっと拭った。

「眠れなかったのか」
「あんたの電話が来なければ眠れてた」

 麻生は苦笑して練の頬を優しく手のひらで撫でた。

「悪かったな」
「どうして来たの」
「おまえに、呼ばれたような気がしたから」

 練は麻生を睨みつけた。
 練の瞳に益々涙が溜まる。

「呼んでねぇよ。あんたなんか、呼んでない」
「悪かったよ。悪かった。俺が来たくて来たんだ。だからもう、そんな風に声も上げずに泣かないでくれ」
「泣いてない」
「じゃあ、帰るよ。俺はいないほうがいいんだろう?」
「そんなこと言ってない。一言も」
「迷惑だって」
「卑怯だって言っただけだ」
「どうして卑怯なんだ?」
「だって」

 練は涙を溜めた瞳のまま訴えた。

「だってこんなときに来られたらあんたのこと離せなくなる。もう二度と。あんたはきっといつか、いなくなるのに」
「いなくなんか、ならないよ」
「嘘つきは泥棒の始まりだ」
「嘘じゃない」
「守れない約束をするのは残酷」

 練が瞬きをすると長い睫に引っ掛かっていた大きな雫がポロリと零れ落ちた。
 それが引き金になったように次々と頬を伝って顎先から透明な涙が滑り落ちる。

「こんなにも懐かせておいてあんたは俺を手放すんだ。簡単に」

 麻生は立ったまま、ベッドに腰掛けた練を抱きしめた。
 練の頭は麻生の胸に包まれ、やがて耳に規則的な音が届いた。
 少し前、自分を静めてくれた心音が。

「どうしてそんな不安になる。俺のことはそんなに信じられないか……」
「信じられるかよ、あんたのことなんか」

 ――でも。
 でも、この音ならば信じられる気がする。

「俺は一体どうしたら……」
「少し、黙って」

 練の言葉に麻生は何も言わず口を噤み、抱きしめる腕に力を込めた。
 耳に届く音が、大きくなる。

 ――トクントクントクントクン。

 自分のものではない、麻生の心臓の音。

 ――トクントクントクントクン。

 規則正しいその音に、練の高ぶっていた感情が少しずつ静まっていく。

「名前」

 胸に抱かれたままの練が小さく呟いた言葉に、ん? と麻生が頭を寄せた。

「名前、呼んで」

 麻生が、練の髪を優しく梳きながら言った。

「練」
「もっと」
「練、練、練」

 麻生の胸に当てた練の耳に優しい心音と声が直接響いてくるようだった。

「練」

 練の鼓膜を心地よく揺さぶる音という名の振動。

「練」

 練の呼吸が穏やかに繰り返される。

「練」

 練の肩の力が抜けた。

「練」

 そして全身の力が抜け、練は完全に麻生に体を預けた。

「練。練? 寝たのか?」

 

 翌朝、目覚めた練の傍らには腕枕をしてくれている麻生の寝顔があった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
催眠術師麻生。いや、迷惑電話フロム麻生。
バレンタインだけれども、聖なるあの日だけれども!ただ単に泣く練が書きたかったのです。この夜に練はきっと泣くんだろうな。練のもう一つの誕生日だと思います。
(20100214)

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プロフィール

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たちばな 惑子(わくこ)
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女性
自己紹介:
練と尚とチョコレートが大好物。ネタバレとインターネットが苦手です。パソコンとは意思疎通できません。晴海で時が止まっています。凝り性だけど大雑把です。口癖は「めんどくさい」。度を超えた頻尿です。

今後のイベント参加予定

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